本の話 - 西岡常一「木のいのち 木のこころ〈天〉」

1993 草思社
西岡 常一 先生

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筋金入りだ

代々法隆寺に仕える宮大工の家系
中でもその宮大工達を取りまとめる棟梁の役目を仰せつかった祖父
その祖父に子供の頃から英才教育を受けた
サラブレット中のサラブレットが先生だ

2,500年以上の歴史がある日本伝統古代建築
その業界最高峰の生き字引とも言える


その言葉は非常に重い

内容は
本と言うより口伝(語り)そのものだ
先生が実際に祖父から口伝されたように
我々に語りかけてくれる

もちろん
現場で飛び交う怒鳴り口調ではなく
優しく噛み砕いて心にそっと語りかけてくれる

不器用ながら筋の通ったその人柄が
随所に溢れている

聞き手であった塩野米松先生と
テープ起こし担当の大野智枝子先生の
暖かい仕事っぷりがなせる技だ


先生は
592~710年頃の飛鳥時代
特に白鳳時代(650~685年?)の工人が
日本古代建築最高峰の工人と言う

残念ながら
飛鳥時代の寺院建築は1棟も現存していない

先生にかかると
国宝・重要文化財のオンパレードで
世界遺産でもある日光東照宮も

「日光東照宮といいましたら、みなさん、修学旅行やらで見に行き、
すばらしい、すばらしいといいますが、建物として考えましたら、
あんまいいもんやないですな。
華美で、派手で、これでもか、これでもかというほど飾り立てている。
厚化粧した舞子さんがぽっくりを履いているようなもんですな。
建物の本来もつ力強さをまったく無視してしもうたんですな。
あれやったら建物というより彫刻でっせ。」

といった具合だ

先生は中でも
鎌倉時代(1185~1333年)の建物を推している

「線が素直で独得の美観があって美しく
自然を生かしつつ自分らの意思を表現しており
当時の人達の生き方が出ている
生きること、死ぬことを考える潔さ
それまでの古い仏教に衝撃を与えた禅という考え
簡潔で力強く、斬新で控え目かつ精神性がある。」

代表的なものでは
法隆寺の舎利殿、絵殿、東院の鐘楼などだ
そう唯一残されている「飛鳥様式」の建築だ

是非とも
棟梁の言う「建物たるものや」を具現化した建物
そう
先人が残してくれた入魂の置き土産を観に
法隆寺へ訪れてみたい


本書は名言の「宝物館」と言える

目先の利益に囚われるコトなく
300年先を考えて建てるべし

山ごと木を買うべし
北側の木・東側の木・南側の木・西側の木
それぞれ使うべき役割が決まっている

「木」と「人間」は同じようなもの
みんな一本一本・一人一人癖がある
適材適所に使えばそれぞれが活きる

無駄の持つ意味

「道具」は手の延長だ
自分がどんな人間かを写し出すのが道具だ

巡りあわせた時代への感謝

先生は
本当の意味での自然との調和
そして日本人としてのあるべき生き方を
不器用に語りかけているように聞こえる

これは大工に限ったことではなく
すべての日本人(特に現代人)に響くものだ

いろんな人に読んでもらいたい本だ
必ずや得るものがあるはずだ



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