本の話 - 柳澤健「1976年のアントニオ猪木」

2007 文藝春秋
柳澤 健 先生

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正直困惑している

ここまで赤裸々に
アントニオ猪木の裏側を書き切っているとは…
まさにセメント試合だ!

敵が多いアントニオ猪木の人物像を
当時の側近・関係者に取材しているらしいが
果たして全部が全部信じ切って良いのだろうか…
と疑問
が残る


はじめに断っておくが
プロレスを盲信している人間の文章ではない

1976年のアントニオ猪木が
全世界(日本だけではない!)のプロレス・格闘技界において
どれほど影響を及ぼしている
かが
時系列に沿って克明に描かれている

正義のジャーナリスト然としており
プロレス=ショウビジネスと位置づけ

プロレス好きには考えつかない(ってか考えもしない)
外側から観たプロレス・アントニオ猪木を
観ることが出来るのはある意味新鮮
と言える


1970年以前に生まれている男性には
いろんな意味でたまらない一冊
であろう

いろんな意味でと言うのは
評価が完全に別れる内容だからだ

プロレス好きでない人間が
書くべきテーマか?!
プロレスをバカにしている!
猪木に便乗した売名野郎だ!
と評価を下す人も少なくない
であろう

逆に
当時の関係者にこんな突っ込んだ話を聞き込み
ここまでの作品にまとめ上げる手腕を評価する人も多いだろう

オイラはプロレス好きなので
断然前者の立場だが評価的には後者

この本は「あり」だ

その理由は1970年以降に生まれ
アントニオ猪木と言うよりも
その下の世代「タイガーマスク・前田・高田…」を
熱心に観ていたファンだからかも知れない

オイラの世代にとってアントニオ猪木は
新日本プロレスを作った人・社長で
全盛期を過ぎたレスラーのイメージでしかない
(よくモノマネされるレスラーというイメージでもある)

この本により
アントニオ猪木世代ではない人間が
アントニオ猪木と言う
唯一無二のプロレスラーの歴史を
学ぶことが出来たのは収穫そのもの


テレビの前にかじりついて観た
あの頃の興奮が蘇ってくる

次の日の学校で
友達と技の掛け合いっこをした
例のあの衝動

臨場感のある描写が
なかなか上手い
のだ

歴史的な一戦の裏で
こんな駆け引きやあんな取り引きがあったとは…
驚きの連続で身体が熱くなってくる

アントニオ猪木が何故そうまでして
やりとげなくてはならなかった理由・原動力が
分かりやすく描かれている

プロレス好きだ!
プロレスなんてショーだ!

いろんな意見があるが
プロレスと言う男の浪漫そのものを
少しでも触れたことがある人間にとって
興味深い一冊
であることに変わりない

もちろん
まったくプロレスを知らない人間にとっても
面白い一冊


プロレスの神様に選ばれた一人の男が
いろんな人間を巻き込み もがき苦しみながら
どうのし上がっていき そして堕ちていったのか…

一戦を退いた後でさえもその影響力を失わない
稀代のプロレスラー「アントニオ猪木」という男
そして
そのアントニオ猪木と肌を合わせた
「ウィリエム・ルスカ」「モハメッド・アリ」
「パク・ソンナン」「アクラム・ペールワン」を
今までにない視点で描ききっている



アントニオ猪木やプロレスを盲信している人間(ほとんど男性だろうが…)は
サンタ・クロースをいつまでも信じている子供と言えるかも知れない

プロレスなんてショーだろ?w

そんなコト言われなくても分かっている
そんな野暮なコトなんて聞きたくない…


最後の最後まで
騙し続けて欲しい
演じきって欲しい

カウントが鳴るまで
リングに立ち続けて欲しいのだ

テレビに釘付けになったあの興奮
技を掛け合ったあの熱狂
そんな自分を否定されたくない
そして否定もしたくない

なぜなら
あの興奮は正真正銘
本物の興奮だったのだから…



本物の興奮を思い出させてくれた本
オススメ


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