本の話 - 真保裕一「奪取」

1996 講談社
真保 裕一 先生

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とあるサイトで
あり得ないドンデン返し!
めちゃくちゃ面白い!
ってことだったので読んでみた

東京中日スポーツに
「夢の工房」のタイトルで連載されていたものを
加筆・改題し出版したものらしい
(新聞連載版とはかなり内容が変わっているとのこと)



物語は
ヤクザ街金に借金をしてしまった友達を助けるため
偽札作りを試みる男の戦いが描かれている
果たして友達の借金を返すことが出来るのか…


導入が強引過ぎてやや苦笑い
軽いタッチのハードボイルドな出だしだ

これが頂けない

都合が良く・あり得ない展開が目立ち
ハラハラドキドキの部分が活きてこない
暴力の痛みや死などの悲しみが伝わってこない


薄っぺらなのだ

作者が想像してるであろうハードボイルドさが
読み手になかなか伝わってこない悲しいジレンマが
終始消えることがなかった

それが顕著に出てるのが中盤だろう

延々とリアルな偽札作りの工程が描かれているのだが
専門用語バンバン&描写リアル過ぎて
何が書いてあるか分からないし
頭の中にもほとんど浮かんでこない状況

各界専門家への取材や参考文献の研究など
かなり労力を注いだのだろう…

その集大成を積め込んだのが逆に作用
これでもかと細部にこだわった描写なのだが長過ぎ!
読み手にはかなり辛い作業であった
典型的な作者のオナニーだ)


っと散々苦言を呈してきたが
物語自体は面白い

クライマックスには手に汗握ったし
最後のドンデン返しにはまんまヤラれ
こっちまで肩の力が抜けてしまったほどだ

エピローグもスタイリッシュでカッコ良い
(このオチがずっと書きたかったんだろう)


・ディテール盛り過ぎ
・ハードボイルドタッチか否かの方向性の統一
この二点がかなり足を引っ張っているが
それを差し引いてもなかなか楽しめる作品ではある


第10回山本周五郎賞
第50回日本推理作家協会賞長篇



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